こんにちは。修理技師の永田です。
梅雨が開けて一気に暑くなってきたこの頃、皆様如何お過ごしでしょうか?
コロナ渦の現在はマスクが欠かせませんが、この暑さの中でマスクはかなりしんどいですね、、、
熱中症で倒れてしまわない様にお気をつけ下さい。
今回はIWCのCAL.89のオーバーホール+機械留めネジ交換の作業風景です。
なかなか見かけることの無い珍しい文字版です。
時のインデックスが四角いドットでサークルが何巻か施されています。シンプルなフェイスが多いIWCにしては装飾性がある文字板ですね。
詳しくはストックリストをご覧ください。
裏蓋を開けるといきなりよろしく無いところを発見しました。
機械留めネジ略してキドメと呼ぶネジですが、ムーブメントがケースに入ってる時にズレたり回転等しない様に固定する役割のネジです。
かなり錆びがありいつ折れるかわからない状態な上、綺麗なムーメントなのでビジュアルも損なう為合う綺麗なネジに交換します。(使用できる範囲なら除去して使用します。純正品では無いです。)
ここのネジは錆びている事が多く回すと折れたりして抜くのが大変です、、、
防水性は無いに等しいのでこまめなメンテナンスが必要です。
しっかり合うかどうか確認してから作業を進めて行きます。
ムーブメントを取り出し、文字板と針を外します。
CAL89の後継機にはCAL400系があります。
ちょうどよくCAL.403が手元にあったので比較してみました。
左が89で右が403です(両方ともオーバーホール前です)
当時のメーカーの目的がスケールダウンだと思っているので、分かり易い変更点は大きさと薄さです。
ひとまわり小さくなっているのと、薄さが違いますね。
その他振動数が変わっていたり、ジャイロマックステンプになっていたりと色々とありますが、またの機会に紹介できればと思います。
話が少し逸れましたが、分解を進めていきたいと思います。
ムーブメント状態の精度を確認したところ、あまりよく無いですね、、、
ビートエラーと呼ばれる項目が3.0と数値が大きく出ています。値が大きいと手巻きで巻き上げした時の動き出しが悪かったり、精度に影響が出てきます。
下の画像はビートエラーが崩れている場合の画像です。中央の銀色の棒がアンクルと呼ばれる部品で左右のピンのちょうど真ん中に位置していないとビートエラーは発生します。(細かく説明すると実際は違いますがここは割愛します。)
テンプ周りを確認後、不具合がないか確認しながら分解していきます。
汚れがついている所は刷毛で手洗いをしてから超音波洗浄機で洗います。
洗浄が完了しました。組み立てと注油をしていきます。
パーツに厚みがあって堅牢な印象です。
テンプまで組み上げが完了したら、精度調整をします。
精度調整後針付けをします。
その後1週間のランテスト後、不具合がなければ完了です。
CAL.89はIWCの名機として名高いムーブメントです。
長期の使用とオーバーホールを考慮してパーツにしっかりと厚みがあり頑丈な作りであるとわかります。
振動数が低い代わりにテンプが大型で精度がしっかりと出せる様に設計されているムーブメントだと思います。
受けの仕上もしっかりと施されているのとルビーも金色のシャトンで留められていて高級機の装いです。
さすがペラトン先生ですね。
・IWC手巻きオーバーホール¥34,000~+TAX(部品代別途請求)
・機械留めネジ交換 ネジ代社外×2¥1000+合わせ工賃¥2000
皆様の時計の修理お待ちしております。